2012.02.15

読んで、聴いて、くぅっとなる
カフェや雑貨、インテリア、暮らしまわりのジャンルにおける、手作りの雑貨的なリトルプレスから企業やお店のPR誌まで。編集と執筆を中心に活動する「BOOKLUCK」主宰。 www.bookluck.jp


71:新生活の思い出にひたる。

むしゃむしゃ、もぐもぐ、じゅるじゅる……ハッ!
みかんを食べ過ぎながらスンズレイ致します。
この旬のおいしさ、あなたにも分けてあげた~い、
チェルシーヤマムラでございます。

さて、まだまだ寒い日が続くが、
暦の上ではもうすぐ春である。
春といえば、新しい恋でハートが
まっ赤っかになりそうなヨ・カ・ン!
(僕の場合、その前にみかんの食べ過ぎで手が
まっ黄っ黄になりそうなヨ・カ・ン!)

もちろん、それだけに限らず、
入学や転勤・転職、引っ越しなどなど、
「新しい」生活が始まっちゃうワ、なんて
ソワソワしている人も多いのではないだろうか。

僕の場合「新しい生活」といって思い出すのは、
大阪から上京し、某雑誌の編集部にライターとして
お世話になることになった、25歳の春のこと。
それまでずうっと実家でオカンに何もかもやってもらい、
かつ学生時代のバイトからそのままずるずると、
馴染みの居場所で働かせてもらっていたので、
知らない職場も、東京に住むのも、ひとり暮らしも!
ぜーんぶ初めての経験、まさにアウェイの総合商社、
「新しい生活」のシネコン状態や~っという感じで
んもう、不安と不安と不安と不安(と期待)で、
人生最大のソワソワ感だった気がする。

引っ越しは、お姉ちゃん家族が東京観光がてら
車で連れていってくれることになった。
家族みんなが手伝ってくれ、
僕の荷物が、借りてきたバンに詰め込まれる。
そうして作業が終わりに近づくにつれ、
オカンの顔がだんだんヤバいことになっていく。
いつも写真を撮る時には無理してパチクリとさせる目は、
ショボショボにへこんで周りはまっ赤に、
口はへの字になり、ほうれい線が大強調。
そしていよいよ車の助手席に乗り込み、
車がそろりと動き出した時、おかんがなんと、
泣きながら走って追いかけてきたのだ。

このシーン、テレビドラマや映画では
何度も見たことがあったけれど、
たいていはべっぴんさんの女優さんとかなので、
その主が誰でもなく自分のオカンというのは、
まさにお正月特番級の衝撃映像であり、
僕はガマンしていた涙がどっとあふれだした。
でも隣の運転席には義兄がいて、
恥ずかしかったので声は出せない。
ふくことも、すすることもせず、
ボロボロとひたすら出まくる涙と鼻水を、
そのまま垂れ流していた。

その時、折しもラジオから、ある歌が流れてきた。
懐メロ感たっぷりのおセンチな曲調で、
アイドルらしき若い女性が
ビブラートを効かせて歌い上げている。
♫グラジュエイショ~ン、グラジュエイショ~ン、
グラジュエイショ~ンデ~エ~

この歌を聞きながら、
「あ、僕は大阪を卒業するんだ」と思った。
涙と鼻水をたっぷり垂れ流しながら、
ぼんやりとした頭で、くぅっと、何度も何度も思った。


実は、このエピソードには続きがある。
(長くなってすいません)
後日、僕は友だちにそのエピソードを話していた。
「♫グラジュエイショ~ン~デ~
みたいなことを何回も言うてる曲やねんなー」
うろ覚えだったので歌詞も自信がなく、
きっと、メロディもめちゃくちゃだった。
けれど、しばらくしてその友だちと再び出会った時、
手渡してくれたCD。それが

倉田まり子「グラジュエイション」。

そう! あの時、ラジオから流れていた曲を
友人が見つけ出してくれたのだ。
今のようにユーチューブもなければ、
そもそもインターネットさえ普及していない時代。
探すのは困難をきわめたと思うのだが、
そのことは何にも言わず、
ただニコニコとしていた。

思い出の曲というのは、
思い出にしようとしてなるものではないし、
またそれが決して、自分好みの曲であるとは限らない。

僕もこれで倉田まり子ファンになったかというと、
そうでもない。

でもこれは、自分の中での特別な一曲として
心の宝石箱に大事にしまっている。






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